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低温物理学の幕開け  〜超伝導発見100周年〜 西田研究室

来年2011年は超伝導現象が発見されてから100年目の節目の年に当たります。 今回は、簡単に超伝導の歴史についてお話ししましょう。

1908年、オランダのカマーリング・オンネスが液体ヘリウム(4.2K) を作ることに成功しました。1911年、この液体ヘリウムを利用して 極低温での物質の性質を研究し、水銀の電気抵抗がヘリウム温度付近で ゼロになるという超伝導現象を発見しました。1913年、これらの業績に 対しノーベル物理学賞が授与されました。これが極低温物理学の始まりです。

以来、多くの科学者が極低温(きょくていおん、と読む。ごく…ていおんではありません。) での物質の性質を研究し、様々な物質で超伝導が確認されました。 1957年、バーディーン、クーパー、シュリーファーらが超伝導を説明するBCS理論を発表。 1986年、ベドノルツとミュラーによりBCS理論では完全には説明できない液体窒素温度 (77K)以上で超伝導になる物質が発見され、超伝導の実用化の研究が本格化しました。

日本ではJR東海が2025年頃に 超電導リニア新幹線 を実現する計画を打ち出しています。日米露では2030年頃までに 超電導ケーブル送配電を実用化する計画もあります。ところで身近なところでは、 MRI診断装置に超伝導がすでに実用化されていることを知っていますか。 病院の検査でこの診断装置に入った経験がある方もいらっしゃるでしょう。 また最近では、宇宙も超伝導では?と推測する研究者もいます。 病院から宇宙にまで広がりを見せはじめた超伝導です。

しかし多くの研究者の努力にもかかわらず、高温超伝導を説明する決定的な理論は、 まだ完成されていません。来年は超伝導発見100周年。 今後どのように発展をしていくのか、楽しみな分野です。

福岡大学オープンキャンパス2010開催

真夏の太陽の照りつける8月7日(土)、恒例の福岡大学オープンキャンパスが開催されました。 当日は、多数の参加者に来ていただきました。この場を借りて御礼いたします。

さて、物理科学科では、「分子・量子・複雑系の世界を探ってみよう」と題して、 公開実験や模擬授業を行いました。公開実験は、「かたちの物理」、「非線形複雑系の世界」、 「環境とプラスチック」、「不思議な超伝導現象」、「授業”発明と特許”の資料展示」、 「迷路探索ロボット」、「電気振動」、「色素増感太陽電池」、「リサージュ図形」、「熱起電力」、 「燃料電池」、「結晶物理」、「ナノサイエンスINST紹介コーナ」の13テーマでした。 また、模擬授業は、「色素増感太陽電池の製作」、「ピンホールカメラ」、「量子の世界」、 「ミューオン触媒核融合」、「CGアニメーションを作ろう」の6テーマでした。

公開実験会場には、ほぼ500人の参加者が入場し、模擬授業にも多数の参加者が集まり、 大学の授業や実験を体験しました。

写真の一部を掲載しますのでご覧ください。

今月のトピックス〜単位について--- 安庭研究室

物理量の大きさを表す場合、国際単位系に従って光速度であれば 3.0×108m/s として表す。 漢字の読み書きが最近関心をもたれているが、日本では長さ、重さ、 時間から始まって貨幣や動物等々の数え方の単位(m/s)と数の桁の名称(108) にさまざまな漢字が用いられてきた。江戸時代から版を重ねて出版された「塵劫記」 という数学書に出ている大きなほうの桁は、一、十、百、千、万、億、兆、京、垓、・・・・ 恒河沙、阿僧祇、那由他、不可思議、無量大数(計21種)である。この中で、 不可思議は1064 あるいは1080などとされている。およそ137億年前の宇宙の誕生から始まって、 観測可能なところでその広がりは930億光年すなわち8.8×1026 mとか言われている。 そしてさらにその先はと思いを巡らしたとき、不可思議という数詞は“人間が思議することのできない” という仏教本来の意味でぴったりのように思える。 一方、この不可思議なところを明らかにすることにロマンを感じる人もある。

フィンランドは遠いが、近かった

4月21日から23日まで、フィンランドにおいてITK2010(ITKはフィンランド語の Interaktiivinen Tekniikka Koulutuksessaの頭文字で、英語ではInteractive Technology in Education)という学会が開催されました。この学会には、 昨年(ITK2009)も参加して発表したため、ことしも参加することにしていました。

ところが、アイスランドで発生した火山噴火のため、航空機が欠航となり、 現地に赴くことができませんでした。 ITKはInteractive Technologyすなわち双方向性のコミュニケーションを実現する 技術をどのように教育に応用するかという観点で研究を進めている集まりですので、 先方からの提案として、私が発表しているところをビデオ撮影してYouTubeにアップ しくれれば、それを会場で放映するから、質疑応答はSKYPEを使ったテレビ会議形式 でやりましょうということでした。まさに、Interactive Technologyを実践する バーチャル発表となりました。 それでも、やっぱり現地に行って、あちらの人々と直接意見交換することのほうが いいなあとしみじみ思った経験でした。

写真は、フィンランドの豊かな自然の光景です(写真提供:Heikki Maenpaa氏)。

歓迎:平成22年度新入生

4月2日に、物理科学コース56人、ナノサイエンス・インスティテュートコース15人の 新入生が、物理科学科の新しいメンバーとして入学しました。 入学式の後、新入生・保護者懇談会を開催しました。 物理科学科主任挨拶、教員紹介、担任からの学科説明、 教務連絡係から履修登録などについての連絡がありました。

4月3日は、12時30分から教務ガイダンスに出席し、 14時30分から配布されたばかりの総合情報処理センターのアカウントを使って、 学内ネットワークにアクセスし、パーソナルコンピュータを操作してWebプロフィールを入力しました。

4月4日は、第二外国語(中国語・朝鮮語)、総合系列科目、 教養ゼミなどの制限科目を登録する希望のある人が履修登録を行いました。

4月6日は、午前9時から履修登録を行いました。各自の興味合わせた科目を選択して登録しました。 前日に、自宅からアクセスして登録した人が20人を超えており、 情報技術に長けた新入生が多いことが予想されます。

4月8日は、物理科学科の教員スタッフと新入生が一つの教室に集いました。 主任挨拶、教職員紹介、新入生自己紹介が行われました。 昼食の後、新入生は物理学基礎ゼミナールの試験と日本語能力試験を受験しました。

最終講義と退職のお祝いのパーティ

平成22年3月6日(土)、本学科 平川晋教授の最終講義が開催されました。 その後、平川晋教授と田中憲治講師 お二人のご退職のお祝いパーティが 行われました。
平川先生は昭和44年4月1日、田中先生は昭和46年4月1日に本学に着任さ れ、45年4月1日に設置された理学部に所属され、応用物理学科および物 理科学科の発展にご尽力いただきました。 参加者一同が、この両先生のご功労に対し、感謝の意を表しました。

平成21年度 理学研究科応用物理学専攻
博士論文公聴会・修士論文発表会

2010年2月3日、18号館2階の1824教室において、 平成21年度理学研究科応用物理学専攻修士論文発表会が開催されました。 応用物理学専攻博士前期(修士)課程2年生11名が、2年間の研究成果を発表しました。

発表者名と題目は以下の通りでした。
1.楠本大輔:Zn同位元素の殻模型による分析
2.角田 航:粉末焼結したポリテトラフルオロエチレン膜の液体透過
3.塚本智史:ポリ乳酸の特異な融解・結晶化挙動の解析
4.中野彰久:Four Cluster RGMによる軽い核の構造
5.中山佳郎:マウスセンサーの計測への応用
6.韮澤 彰:増感剤として酸化ビスマスを用いた色素増感型白色太陽電池の効率改善
7.藤田礼彰:PCocマイコンを用いた計測・制御
8.三浦優佑:走査型トンネル顕微鏡を用いたフォトクロミック分子の観察
9.山崎壮挙:手指動作によるコンピューター入力方法の検討
10.吉永あつき:集束したレーザー光によるネマティック液晶の配向制御
11.渡壁克己:偏光顕微鏡観察によるポリ乳酸の結晶化挙動の解析
 

応用物理学科「先輩と語る」を開催

応用物理学科「先輩と語る」を、11月13日(金)18号館1823教室で行いました。  卒業生として、平井友樹さん(福岡大学薬学部事務室)と横山由里子さん (株式会社富士通九州システムズ)の2人、在学生として3年次生と大学院生の約80人、 教員4名が参加しました。
  おふたりには、大学時代や就職活動の体験談や自分の進路を定める 考え方などについて紹介していただきました。
  ご講演後、おふたりを囲んで、参加者が懇談を行いました。

 

今月の研究室〜光科学研究室(御園研)

私たちの研究室では、超高分解能レーザー分光による精密計測の研究を行っています。 主な研究対象はナフタレン等の基本的な多原子分子です。 基本的な多原子分子の分光学的性質を研究することは、 環境問題や生命科学の基礎として極めて重要です。 この精密分光計測の鍵を握るのが、優れた精度を持つ波長の目盛です。 我々は、原子時計に安定化した光周波数コムをこの目盛として利用して、 究極の精度で超高分解能スペクトルを測定し、多原子分子のダイナミクスを解明しています。 (写真)超高分解能レーザー分光システム


2009年1月28日、9号館2階の理学部会議室において、 理学研究科応用物理学専攻博士論文公聴会が開催されました。 応用物理学専攻博士後期課程3年生の 岡野 太治 君が、 「外力による活性要素ネットワークの集団ダイナミクスの制御 ?Control of Collective Dynamics in a Network of Active Elements by External Forcing-」と題する博士論文を発表しました。

2009年2月3日、9号館2階の理学部会議室において、 平成20年度理学研究科応用物理学専攻修士論文発表会が開催されました。 応用物理学専攻博士前期(修士)課程2年生10名が、2年間の研究成果を発表しました。 発表者名と題目は以下の通りでした。

1.内田智朗:β型Ti合金ならびにZr合金の不整合オメガ相の低温相挙動と電子状態
2.江良和樹:低分子量ポリ乳酸の融解・結晶化挙動
3.清水祐輔:Ti-Nb-Ta-Zr-O合金の弾性異方性の実証及び非線形弾性応答メカニズム解明
4.高以来雄輔:酸化鉄不純物を添加したGd系銅酸化物超電導体の作成と評価
5.東藤 毅:光周波数コムを利用した可視単一周波数光源によるナフタレン分子の超高分解能分光
6.平河賢一:生体由来物質の熱的性質と力学的性質
7.松木慶二:酸化鉄不純物を添加したY系銅酸化物超電導体の作成と評価
8.村上清治郎:酸化ビスマスをドープした多構造酸化チタンによる色素増感太陽電池
9.本村哲也:Yb系銅酸化物高温超電導体の試料作成法の検討と評価
10.菊永恭平:STMによる分子構造の研究

ナノサイエンス・インスティテュート新設

今年度、理学部に物理科学科と化学科が協力して教育を行う 「ナノサイエンス・インスティテュート」が新設されました。ここでは物理や化学といった 分野の垣根を越えて、機能性を持ったナノメートルサイズの物質の作り方や、 作成した物質の評価、応用の方法を学びます。1学年が20名程度の小さな組織なので、 学生同士が仲良く演習や実習に取り組んでいます。写真は、4月に開催した教員と学生 との懇談会の時のものです。

オープンキャンパス開催報告

8月9日(土)に福岡大学オープンキャンパスが開催されました。
本学入学センターのページ もご覧ください

物理科学科では、以下の催しを行いました。

テーマ:分子・量子・複雑系の世界を探ってみよう
開催時間:午前10時から午後4時まで

公開実験:環境と高分子の物理学、非線型複雑系の世界、かたちの物理、迷路探索ロボット、 リサージュー図形、熱起電力、燃料電池、電気振動、色素増感電池、コンピュータシミュレーション、 各種の授業の資料展示

模擬授業:色素増感太陽電池の製作(10時40分〜11時40分と14時〜15時の2回)、 ピンホールカメラ(10時40分〜11時40分と14時〜15時の2回)、量子の世界(随時受付)、 ミューオン触媒核融合(随時受付)、CGアニメーションを作ろう(随時受付)

400人を超える皆さんにご来場いただきました。誠にありがとうございました。

超伝導物性研究室(西田研究室)

この欄では各研究室の研究内容を紹介するのが一般的ですが、今月は少し趣向を変えてみました。 先日ある弦楽四重奏団のコンサートを聴きました。特に感動したのはあの有名なベートーベンの 作品132の第3楽章です。彼はこのとき体調を崩して作曲を中断したほどですが、転地療養によって 回復しそれを神に感謝してこの楽章を書いたそうです。教会旋法といわれる音階を使って書かれ たゆっくりした楽章で、聴いていて本当に心が癒されるようでした。そのときです、ホール全体 が共鳴し天上から天使が舞い降りてきたように感じたのです。私にはそれが「純正律」の響き によってもたらされたように思われました。「純正律」とは音階の各音の間の振動数比を2:3 や4:5のような簡単な整数比で構成する音律のことで、ピアノなどで一般的な「平均律」と比 べて物理学的に和音の協和度がより純粋なものです。 図1は単純な正弦波による単音(上)、 およびドとレによる「不協和音」(下)の波形です。下のグラフでは振動数がわずかに異なる 2つの音を同時に鳴らすことによって、振動数の差に等しい「うなり」が発生していることが よく分かりますね。これが「不協和」の原因です。 それに対して図2はドとソの「協和音」を 「純正律」(上)と「平均律」(下)で比較したものです。上はとても規則的な波形で耳に 心地よく、ホールとも共鳴しやすいことが分かります。下の波形もほとんど同じですが、 よく見ると右の方でわずかに変化が生じつつあることが分かります*。弦楽四重奏はオーケ ストラのような大人数ではなく、たった4人で演奏するもので本来はサロンのようなこじん まりした空間が最適です。しかしその日は1800人も入る大ホールの最後方にいたので音が十 分に聞こえないのではないかと心配でしたが、それは全くの杞憂でした。「純正律」の響き のよさを再認識したわけです。高校生の皆さんは勉強で忙しい毎日ですが、時には静かなク ラシック音楽を聴くと気持ちが安らいで、よい休息になると思います。休憩した後は、 ここにでてきた「正弦波」、「振動数」、「共鳴」、「うなり」などの物理用語を復習さ れるとよいのではないでしょうか。(*これは平均律の有用性には影響しません。)

結晶物性研究室(武末研究室)

材料科学、最近はマテリアルサイエンスとか、マテリアルズサイエンス と呼ばれている領域では、様々な研究手法を駆使して様々な物質の研究 が行われています。その中で、我々は2つの大きな流れを直視し続けて おります。1つは材料の超微細化です。みなさんはナノという言葉を耳 にしたことがあると思いますが、この技術により、ナノメートル(10の マイナス9乗メートル)レベルで原子・分子が配列を自己制御した、また はそれらの配列が人為的に制御された材料やデバイスを作製することがで きます。もう一つは量子材料設計法と呼ばれる材料探索法の適用です。 この手法は、コンピュータシミュレーションにより材料の性質を推測する ものです。これにより、錬金術とは大きく違って、インテリジェントかつ クリーンな材料設計を高効率で行うことができます。 物質創製・開発を、どちらかの流れ、または両方の流れに沿って行うにあ たって、必ずと言っていいほど必須であるのが原子・分子レベルで物質の 構造を知ることです。そのための手法として、X線・粒子線を用いた様々 なものが広く使われております。中でも電子顕微鏡法の進歩と普及にはめ まぐるしいものがあり、電子線の回折・干渉を利用して写真に示すような 原子配列が実験室で手軽に目で見えるようになっております。写真はシリ コン結晶中の原子配列を示しております。白い点がシリコン原子です。 すぐに分かると思いますが、白い点は、一辺が約0.2ナノメートルの 小さな正三角形を形成しており、その正三角形が規則正しく配列し、 隙間なく写真のフレームを埋め尽くしております。写真は当研究室の学生 が100万倍の倍率で撮影したものです。

応用量子物理学(田崎研究室)

私たちは大変多くの「物」,あるいは「物質」に囲まれていますが, これらの物質は限られた数の「元素」で出来ています。限られた数の「元素」。 私達の住む世界には,一体,何種類の元素があるか知っていますか。 現在知られている元素の数はだいたい115です。 (最近、日本の理化学研究所が原子番号113の元素を発見したという報告もなされています。) 元素は,同じ原子番号(陽子の数)をもつ原子の総称です。この原子は電子と原子核から成り, 原子核は2種類の粒子,陽子と中性子からできています。こう考えると, 私たちの住む世界に存在する物質の多様性は,この3種類の粒子, すなわち電子および陽子と中性子の数によって支配されているとう見方もできます。 特に,陽子と中性子からなる原子核は,原子の質量の99.9%を担い, 自然界での物質の多様性を発現する重要な結節点と言うことができます。 私達の研究室では,この原子核の運動の多様性を研究しています。最近の実験技術の進歩によって, 原子核物理学は新しい段階に入ったと言えます。原子核物理学の発展にご期待下さい。 所で,物理学の楽しみ方も様々のようです。インターネットで「the element song」や 「the atom song」などを検索してみて下さい。楽しい曲があるようですよ。

今月の研究室・・・・物理情報科学研究室(寺田研究室)

〜迷路探索自走式ロボット”マイクロマウス”〜

私たちの研究室の取り組んでいるテーマの一つにロボットがあります。ロボットというと、 最近では二足歩行式のものや動物を模した癒し系のものなどがマスコミで 取り上げられて話題になりますが、それとは少し違います。迷路探索自走式ロボットは、 マイクロマウスとも呼ばれ、未知の迷路を調べながら走行し、ゴールまでたどり着く速さ を競う競技で、日本では1980年から行なわれています。このような迷路を走行する マイクロマウス競技、コース上に引かれたラインをたどりながら走行するロボトレース競技、 迷路の中におかれた円筒を発見して逆さまに置くマイククリッパー競技などがあり、 公式な大会が開催されています。写真に示す通り、研究室には16×16区画の迷路コースを設置し、 ロボットの走行実験が毎日のように行なわれています。

今月の研究室・・・・高分子物理学研究室(安庭研究室)

〜環境と高分子物理学〜

異常気象などとも関係して地球環境の問題が年々大きく取り上げられています。 研究室のテーマの一つは、高分子物理学の研究を通して環境問題の解決に貢献する ことです。  現在、多くのプラスチック製品は枯渇する運命にある石油を原料としています。 しかも製品を使用後廃棄するとゴミとなって残り、焼却すると地球温暖化の 原因となる炭酸ガスを放出します。そこで、大気中の炭酸ガスをもとに光合成 によってつくられる植物など、枯渇しない持続可能な資源から、 廃棄したときには自然界で微生物によって分解する生分解性プラスチックがつくられ、 脚光を浴びています。  研究室では、このような生分解性プラスチックの代表で、 とうもろこしを原料とするポリ乳酸について、プラスチック製品としての強度や 耐熱性などの実用上の特性の向上を目指して、ポリ乳酸という高分子が形成する特有の 結晶構造と物理的性質について研究しています。ポリ乳酸原料を加工したとき、 どのような結晶ができているかが製品の強度や耐熱性などの物理的性質が決まる主 な原因ですので、結晶を成長させる温度や時間などの条件と生成する結晶、 および物理的性質に焦点をあてて系統的に調べ、報告してきています。

(1)学科名称変更について

福岡大学理学部「応用物理学科」は、平成20 年4 月から「物理科学科」に名称変更いたします。 物理学の成果は、通信、情報、交通、エネルギーなどあらゆる分野の技術として応用され、社会生活の質の 向上に重要な役割を果たしています。このように、物理学という学問は、もともと「応用される」という一面を持っ ているといえます。

「応用物理学科」は、昭和45(1970) 年に自然科学の急激な進歩発展に伴う産業界の技術革新に直接寄与す ることを目的として設立しました。「物理科学科」では、学科設立の目的の理念に基づき、「応用される」ことを 前提とした物理学を学ぶ環境を提供し、企業・教育・研究などの現場で要求される、物理学を基礎にした論理 的思考、データ解析および情報処理の能力を身につけることを学科の教育目標としています。

主な変更点

・徹底した基礎学力養成を目指すカリキュラム
物理科学科のカリキュラムは、応用物理学科の大きな特徴である少人数指導をさらに推進し、高校の教育 と大学の教育を無理なく接続するように配慮されます。
・幅広く奥深い専門科目群
力学・電磁気学・熱力学・波動・量子力学の基礎を固め、宇宙天体・原子核・半導体・地球物理・情報処理 の分野に発展するだけでなく、キャリア形成のための科目群も十分に整備されています。

今月の研究室・・・・形象物理学研究室(赤星研)

私たちの身の回りの天然物も人工物もそれぞれの形をなし、 また運動や変化にも形があります。そのような形を生む物理的メカニ ズムや形自身に潜む数理を考察する学問分野は「形の物理学」あるいは 「形の科学」とよばれています。しかし形は物理世界だけでなく心の中に も存在します。というより、私たちにとっての世界とは実は心理世界です。 私たちは神経系が作りだしている壮大な虚構?の中で暮らしています (その証拠に風邪ウィルスやアルコールなどによって神経系が変調をきたすと 世界は不安定化します)。したがって“形”は心理現象でもあります。 これを意識して当 研究室では「形象物理学」という言葉を使っています。 とはいうものの、形象一般の研究には方法論上の様々な困難が伴いますので、 物理屋として例えば次のようなことを研究しています。

2種類の原子から構成される合金を考えます。ある高い温度範囲では、 原子が格子点上を乱雑に占め、より低い温度範囲では、規則正しく 配列します。高い温度範囲にあった合金を急冷して、低い温度範囲 に置くと、規則正しく原子が並んだ領域が形成 され、大きくなっていきます。 やがて、配列順序の異なった領域(簡単に言えば、A、B2種の原子が、 ABABと並んだ領域とBABAと並んだ領域)の間には、界面が形成され、 時間とともに変化していきます。このような現象を解明することは、 材料科学の分野に大きく貢献すると考えられます。図1は、 Cu3Au合金での界面の形成を、理論的に取り扱い、 シミュレーションした結果です。この合金では、時間が進むにつれ、 特徴的な矩形状の界面が形成されていく様子が分かります。また、 実際のCu3Au合金での電子顕微鏡観察でも、 同じような界面構造の特徴が見られます。(図2)

今月の研究室・・・・理論量子物理学(福嶋研)

〜当世学生気質:大学で勉強する方法〜

今迄は研究室毎に専門分野についての解説が主でしたが、 今回は趣きを変えてみました。教壇に三十数年立っていますと、 昔の学生さんとつい比べてしまいます。変わっていないことが多いのですが, 今の学生さんはあきらめが早いようです。ここでは、 1年生によく言っていることを書きましょう。 高校生で見ている人がいたら、大学での勉強の参考にして下さい。 大学で勉強を続けるには、あきらめないことです。どんな学問でも、 どこかは理解するのが難しいことがあります。すぐにあきらめては、 勉強を続けることができなくなります。では、どうすれば良いでしょうか。 復習をして下さい。高校時代は勉強していたと思いますが、 大学に入ると勉強しなくなる人がいます。わからないことは早く 解決しなければいけません。そのために、復習は大事です。 ちんと復習をすれば、先生に質問に行ったとき説明がよくわかります。 どこがわからないかを知ることが重要です。理系の学部・学科では、 多くのことを学ばなければなりません。楽しくとまではいかなくても、 いやいやでなく勉強するには、はっきりとした目的・目標を持って下さい。 いろいろな解説書を読み、面白そうだ、やってみたいと思うことを見つけて下さい。 はっきりとしていればいる程、勉強を続けることができます。 解説書は先端的な内容の本です。先端的な内容を理解し、 将来研究をしたいと思ったら、基礎が必要です。基礎の勉強はあまり面白くありません。 しかし、基礎がしっかりわからなければ、先端的研究はできません。 目標がはっきりしていれば、基礎の勉強もすることができます。 皆さんが充実した学生生活を過ごされることを願っています。

生体由来物質(平松研)

〜科学技術における物理学の役割の変遷〜

20世紀前半は、物質の根源を明らかにした時代であった。 物理学や化学がその原動力となったが、特に物理学では量子 力学などの現代物理学が確立され、その成果として半導体や レーザーなどの新しい技術が人々の生活を変えた。コンピュ ータなどディジタル電子機器の発達は、この科学技術に負うと ころがおおきい。
 20世紀中頃、生物学者と物理学者が遺伝物質であるDNAの 構造を明らかにし、遺伝というマクロな生物学的現象を分子 レベルで解釈する糸口が発見された。このことをもとにし て分子生物学が確立され、20世紀後半から現在への生 命科学の発展がある。
 21世紀現在の科学は、「生命科学の時代」に入ってい るといえるが、物理学の役割は終わったのだろうか?い やそうではない。科学の流れが、物質を対象としたもの から生命現象・生体を対象としたものへと変遷している のである。物理学的な考え方、手法はこれからの生命科学 の発展になくてはならないものである。生命科学の分野 で活躍している多くの物理学者がいることからもそれが分かる。
 物質についてもきわめ尽くされたわけではない。地球上の だれでもが等しく清潔で文化的な生活ができるためには、 高機能を有した地球環境にやさしい物質の開発や、 エネルギーの節約に寄与する物質や方法の開発など、 まだまだ解決しなくてはならない問題が山積している。 これらに対しても物理学の役目はおおきい。

構造物性研究室(香野研)

ナノテクノロジー、ナノサイエンスという言葉 が使われるようになって久しいですが、皆さんはこ の言葉をご存知でしょうか。ナノ(nano,記号n)とは 10-9(10の-9乗= 0.000000001)を表す接頭辞で、大きさで言え ば、 1nm(1ナノメートル=0.000000001m=10億分の1メートル)のよ うに使います。ナノスケールの世界は、私たちの体の大きさと比 べて非常に小さく目で見ることはできません。小さい方から見ると、 それは原子が数十個〜数千個程集まったくらいの大きさということ になります。このナノスケールの世界では大きさに関連した特異 的な現象が起こります。ナノテクノロジー、ナノサイエンスは一 つの分野を示すわけではなく、その科学的・技術的内容は分野横断 的に大きく広がっています。例えば、コンピュータや通信の基盤を 支える半導体関連技術、高分子材料、バイオ関連技術、最近では医 療応用にも注目が集まっています。一言で説明することはできませ んが、ある側面から見ると「ナノメートルスケールの世界で起こる 特異な現象を理解する科学的研究とそれを応用するための技術開発の 領域」と言えるかと思います。私たちの研究室では、ナノメートル スケールで起こるユニークな現象を知りたい・理解したい、そして 社会に役立つ技術に発展させたいという思いで、ナノ構造を作る技 術、ナノの世界で起こる現象の研究などに挑戦しています。

理論核物理学研究室のゼミ (田崎研)

理論核物理学研究室のゼミ 今年度の初め, 私たちの研究室ではかねてから興味があった星の 構造や進化に関するゼミを始めました。教材にしている本は "An Introduction to the Theory of Stellar Structure and Evolution" という本で,結構読みやすく,面白い本です。例えば,星の進化に要する時間 と比較すると,人間の歴史などはほんの瞬間です。では,どうやって星の進化を 類推するか。面白い例えがしてありました。『ある短い期間に撮った,人間の写 真が沢山あります。そこには子供から,お年寄りまで,色々な人が写っています。 このような写真から人間の成長をいかにして類推するか』例えば,これらの写真か ら人間の身長は年齢とともに伸びるのか縮むのかを知る手立てはあるのだろうか というわけです。皆さんだったらどうしますか?

結晶物性研究室 (武末研)

物質は多数の原子・分子が結合してできています。 それらはどのように結合しているのでしょうか? 基本的には2つあります。1つはクーロン結合と呼ばれるもので、 物質中で正や負に帯電したイオン・分子が互いに及ぼし合う電気的引力によ る結合です。その名の通りですね。もう1つは非クーロン結合と呼ばれるもので、 原子間でお互いの電子を共有し合う結合です。非クーロン結合で重要な役割を果 たす電子は、それぞれが属する原子だけでなく周囲の原子にもまたがって存在し、 分子軌道と呼ばれる一定の軌道を描いて運動しています。この軌道は、量子力学に おける電子の運動方程式を解くことにより分かります。その解より、我々は原子 間の結合が強いか弱いか、電子のエネルギーがいくらか等の情報を知り、 それらを物質が持つ物理的性質の研究に役立てます。ここで、簡単に水分子( H2O)の分子軌道計算結果をお見せします。水分子において電子が 占める分子軌道は5つあります。図は5つの軌道を合成して3次元的に描い たものです。図中のクマの顔のようなものは、電子が存在する確率が同じ局面で 囲ったもので、水分子の形を示しています。クマの両耳あたりに水素原子が位置しており、 クマの口あたりに酸素原子が位置しております。クマの顔をのせた青い面の上では電子 の存在確率分布を示しています。本手法は、当研究室における研究手法の一つです。我々は 、金属やセラミックスなどの物質中で、クラスターと呼ばれる特定の原子の固まりに着目し、 クラスターをモデル化することにより計算を行っております。ただし、特定の原子の固まり を決めるには、それなりの労力が要求され、実験なくしては机上の空論に終わってしまいます。 クラスターを決めるための実験手法はまた別の機会にお話しします。

超伝導物性研究室 西田研(理学部入学センター委員)

8月5日(土)にオープンキャンパスが開かれました。全学で8600人以上、 理学部で700人以上、さらに応用物理学科にも400人以上の高校生の皆さんに ご来場いただきました。この場を借りて、お礼をいいます。応用物理学科で は演示実験をたくさん行いましたが、写真のように皆さん熱心にご覧になり 、また率直に感動していました。 高校ではどうしても講義や問題演習が中心 になりますから、自分達の目で物や現象を実際に見たことで、一層興味や関心 を高めてもらえたのではないでしょうか。西田研究室では、超伝導の「浮き磁石」と 「フィッシング」の実験をしました。短い時間でしたから、説明が充分にできなか ったかも知れません。もう少しここが知りたかった、というようなことがあったら、 遠慮せずに西田(nishida@cis.fukuoka-u.ac.jp)までお問合せください。また、 もっと写真が見たいという方は、 こちらもご覧ください。 暑い日が続きます。受験生の皆さんは、健康に気をつけて頑張ってください。

超高圧物性研究室 (永田研)

8月上旬から9月中旬まで、学生は夏季休業となりますが、 教員にとっては学会発表の準備や論文執筆、研究などで忙しくなります。 学会発表の場である学術講演会では最新の研究成果を発表すると同時に、 研究仲間が集まり親睦を深め、新しいプロジェクトの立ち上げや研究内容についての議論をします。 特に8月は国際会議が多く開かれるため、教員は海外に出かけたり、海外からの研究者を迎えます。 今年は高圧下で生ずる固体や液体の新しい現象についての国際会議が福岡市で開かれ、 当研究室も圧力誘起金属化について発表をしました。国内では応用物理学会や日本物理学会が開かれますが、 そこでは最前線で活躍している研究者に混じって、 多くの大学院生や時には卒論生が発表をします。

超分子複雑系物理学研究室(宮川研)

自律的に形成されるリズムや空間構造は生命を特徴付ける主要な性質です。 この様な性質は物理学の言葉で言えば、非平衡条件下で維持される非線形性に よって成り立っています。我々の研究室では、これらの性質を超分子システムで再構成し、 生物模倣材料(生物が持つ機能の一部を発現する材料システム)の 開発とその機能について研究しています。9月下旬の日本物理学会では、 次の3つテーマについて学会発表を行いました。
(1)レーザー光の力を利用した、脂質のチューブ生成ダイナミクス: 光ピンセットによりチューブの生成を自在に制御できます。
(2)フォトリソグラフで作製した結合振動子系で現れるノイズが誘起する同調現象の ポピュレーション効果: 半導体プロセスで用いられる微細加工技術により擬似細胞集団 として微小振動子群を作製しました。
(3)反応拡散系で現れる生物初期胚の体節形成を模倣したパターン形成ダイナミクス: リズムを空間の構造に変換しながらパターン形成が行われます。


光科学研究室(御園研)

私たちの研究室では、超高分解能レーザー分光による精密計測の 研究を行っています。主な研究対象はナフタレン等の基本的な多原子分子です。 基本的な多原子分子の分光学的性質を研究することは、環境問題や生命科学の 基礎として極めて重要です。この精密分光計測の鍵を握るのが、優れた精度を 持つ波長の目盛です。我々は、原子時計に安定化した光周波数コムをこの目盛 として利用して、究極の精度で超高分解能スペクトルを測定し、多原子分子の ダイナミクスを解明しています。

〒814-0180
福岡市城南区七隈8丁目19番1号、福岡大学理学部物理科学教室

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