超伝導の基礎

福岡大学公開講座
物理学シリーズ第五回 西田昭彦
からの抜粋


はじめに

数年前に液体窒素温度(−196℃,77K)を越える転移温度を示す 高温超伝導体が発見されてから、超伝導フィーバーが巻き起こったことは 記憶に新しい。しばらくのあいだ、室温超伝導発見のニュースや様々な 夢物語がすぐにでも実現するような報道が相次いだ。しかしそれらの発見 は真実ではなかったし、様々な夢も容易に実現される物ではないことが 分かってきた。

それではもう熱は冷めてしまって、超伝導には社会的関心があまり払われな くなったのだろうか。もちろんそうではない。例えば科学技術庁などの報 告によれば、超伝導演算回路が実現されるのが2001年頃、超伝導リ ニアが実用化されるのが2007年頃、室温超伝導体が開発されるのは 2017年頃、などと予測されている。このように、 超伝導が21世紀の科学技術や社会生活にとって大きなインパクトを与 えるであろう事は間違いない。ただしここで大切なことは、 何年とゆう予測が必ず当たる物ではないし実現のためには相応する 努力が必要である、ということではないだろうか。

例えば、なぜ77Kを越える高い温度で超伝導になるのだろうか? という問題がある。これまでの重点的な研究によって、 かなり焦点がしぼられてきたとはいえ、根本的にはまだ未解明である。 実に多くの研究者がこの間に集中的な努力を傾けてきたにも関わらず、 この基本的な問題が未だに解明されていない。 「液体窒素温度で2テスラ以上出せる超電導磁石を製品化できるか?」。 この課題に対する明確な答えもまだ出ていないように思われる。 結局、今望まれていることは超伝導を物理現象として本質的に理解すること、 基本的な物質開発を行うこと、応用のための基礎研究を行うこと、 製品化のための研究、開発を行うこと等、このような一連の研究が有機的 につながった形での地道な努力が継続されること、であると言うことが出来よう。 そして実際にも、加熱しすぎたフィーバーがおさまった代わりに、 足下を固めた基礎研究が各方面 で実施されてきている。


超伝導の代表的な性質

超伝導の代表的な性質としては次の五つに整理できる。

完全導電性 電圧降下無しに直流電流が流れる
(電気抵抗ゼロ)
強力電磁石
電力輸送
完全反磁性
(マイスナー効果)
超伝導体内部の磁力線を排除して
内部磁場をゼロにする
磁気シールド
磁束の量子化 超伝導リングを貫く磁束は、2×
10^(-15)Wb (2×10^(-7)Gcm^2)を単
位とするとびとびの値を取る。
量子磁束計
ジョセフソン効果 絶縁体を間に挟んだ二つの超伝導
体間に電圧降下無しにトンネル
電流が流れる。
超伝導エレクト
ロニクス
磁束のピン止め ひずみや不純物などの欠陥を多く
含む非理想的な第二種超伝導体を
貫く磁束は、これらの欠陥に引っ
かかり止められて動けない。
磁気ベアリング
電磁石

完全導電性(超伝導の発見)

低温における電気抵抗の消失は、 それによって初めて超伝導が発見された性質であり、またもっとも ポピュラーに知られている。ヘリウムの液化に初めて成功したオランダの カマリン.オンネスは1911年、水銀の電気抵抗が絶対零度近くで どうなるかを測定していた。当時は低温での金属 の電気抵抗について相反する説があった。マティーセン、デュワーらは 絶対零度では電子の運動をじゃまするイオンの振動が無くなるから、 電気抵抗は極限的にゼロになると主張した のに対して、大御所のケルビン卿は逆に電子と言えども低温では凍り付 いてしまうから抵抗は無限大になると考えた。こうした背景の中で、 純度の高い金属が容易に得られる水銀を液体ヘリウム で冷却していったオンネスは、4.2Kで電気抵抗が突然ほぼゼロになる ことを発見した。 装置の性能の限界のために抵抗は10^(-5)オーム以下である事が示されただけ であるが、彼はこれを抵抗が全く消失した物だと判断した。 これが超伝導現象の発見であった。

超伝導状態への移り変わりはある温度で急激に生じており、 電気抵抗も絶対零度に向けて 漸近的にゼロに近づくというような振る舞いと は全く異なっている。これは水が氷になるように、全く新しい相への突入 (相転移)であることを意味する。このように超伝導相に移り変わる温度を、 (超伝導)転移温度という。

ところで電気抵抗が本当にゼロであるかどうかは、 どのようにして判断されるだろうか。電気抵抗の 直接測定からでは、 どうしても限界がある。感度の高い方法として超伝導体で作った閉回路を 流れる電流をそれが作る磁場によってモニターする方法がある。 超伝導回路には電圧降下が生じないのでいったん流れ出した 電流は永久に流れつづけると考えられる。これを永久電流という。 MITのコリンズはこの方法で電流が二年半以上流れつづけた事を確認している。 二年半たったときに、なにかの都合で液体ヘリウムを入れ忘れたために、 常伝導に転移してしまったとのことである。電流の減衰の詳しい実験により、 現在では永久電流は少なくとも十万年以上は流れつづけ、 電気抵抗は10の-25乗オーム以下であることを示す結果が得られている。 さらにBCS理論によって超伝導が位相のそろった量子力学的状態にあり、 電子散乱を禁止された新しい相であることが示された。ここで周期律表を 眺めてみると、超伝導を示す元素が意外に多いことがわかる。また、 アルカリ金属や金・銀・銅などのいわゆる良い金属は超伝導にならない ことに気づく。このことは後で重要になる。(以下省略)



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