光周波数コムを利用した超高分解能レーザー分光


基本的な分子の分光学的性質を研究することは、分子構造や化学反応素過程の基礎研究だけでなく、環境問題や生命科学、天文学、材料科学などの基礎としても極めて重要です。

分子の電子励起状態間の相互作用や反応のダイナミクスは、励起準位のごくわずかなシフトや広がり、分裂等として現れるため、従来の分解能の低い分光法では観測することができません。このため、超高分解能レーザー分光によってこれらを精密に計測する必要があります。

この精密な分光計測において重要となるのが、優れた精度を持つ光周波数の目盛です。当研究室では、光周波数コムをこの目盛として、超高分解能レーザー分光の研究を行っています。


光周波数コム
光周波数コムの"コム"とは、英語のcomb、つまり、髪をとかす櫛のことです。図1に光周波数コムのスペクトルを示します。広い周波数範囲にわたって、一定の間隔frepでモードが並んでいます。このようにスペクトルが櫛の形をしていることからコムと名付けられました。この周波数の広がりは数100 THz、frepは数100 MHz程度なので、およそ100万本のモードが並んでいることになります。

frepの間隔で、周波数ゼロまで伸ばしていったときのオフセットをfCEOと呼びます。このfCEO とfrepを安定化すれば、光周波数コムは、等しい間隔でモードが並んだ、光周波数の目盛として使うことができます。

図1 光周波数コムのスペクトル

モード間隔frepの"rep"は、repetition rate(繰り返し周波数)の略、オフセット周波数fCEOの"CEO"は、Carrier Envelope Offset の頭文字をとったものです。

超高分解能レーザー分光
孤立したひとつの分子の性質を研究するため、当研究室では気体分子について超高分解能レーザー分光を行っています。気体分子の分光を行う上での最大の障壁となるのが、ドップラー効果によるスペクトル幅の広がりです。この影響を取り除くため、飽和吸収分光法やドップラーフリー二光子吸収分光法を採用しています。

図2 ドップラーフリー二光子吸収分光システム

中央の銀色の筒がサンプルセル、それを挟むように立っている二つの黒いマウントの中にミラーが取り付けられており、ファブリー・ペロー型光共振器を構成しています。右向きに進む光と、左向きに進む光のドップラーシフトは、大きさが等しく符号が反対なので、これらの光子を一つずつ吸収するとドップラー効果の影響を相殺することができます。
図3 ヨウ素分子の飽和吸収スペクトル

最上段(黄)と二段目(緑)は光周波数コムによる光周波数の目盛。三段目はRef. 1のデータから作図したヨウ素分子の飽和吸収スペクトル。最下段は当研究室で測定したヨウ素分子の飽和吸収スペクトル。

[1] H. Kato, et al., Doppler-Free High Resolution Spectral Atlas of Iodine Molecule 15 000 to 19 000 cm-1, JSPS, (2000).

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