ナノサイエンス of Nanoscience INST

ナノサイエンス・インスティテュート

ナノサイエンスってなに?

 最近、ナノサイエンスやナノテクノロジーという言葉や記事を、新聞や雑誌、テレビなどで見る機会が増えてきました。ナノサイエンスやナノテクノロ ジーは、材料や、情報、生命、環境など、21 世紀の多くの分野の基礎となる科学や技術であると言われています。ナノサイエンスやナノテクノロジーとはどのような科学や技術なのか、目指すものは何か、 この科学や技術がもたらすものは何かなどについてまずお話しします。

 10億分の1メートルを1ナノメートルといいます。コンピュータや携帯電話など電子機器の中で半導体材料として使用されているシリコン原子の原子間距離が0.234 nm ですから、1 nm とは、原子数個分の長さといえます。この数 nmから数百 nm のナノサイズの物つくりに最先端科学の課題が集中しており、ナノサイズ領域の科学は現在最もホットな科学の1つになっています。情報技術(IT)の鍵を握 る集積回路(IC)の配線や素子の大きさは、いまや百 nmの大きさになっており、コンピュータの計算速度を上げたり記憶素子の高密度化を達成するには、更なる素子の微細化が必要となっています。このように大 きなシリコン単結晶から、加工によってICを作るような微細化の技術をトップダウンの技術といいます。

 一方、ナノテクノロジーの将来を担う材料として最近作成されたフラーレンやカーボンナノチューブ、超分子などの大きさは数 nm ~ 数十 nm であり、このようなナノ材料を組み合わせて、分子素子や高密度記憶素子などのデバイスを作っていく計画があります。このように原子から組み上げてデバイス を作っていく技術をボトムアップの技術といいます。このボトムアップ技術とトップダウン技術の最先端が出会った所(交差している所)がナノサイズの領域 で、両技術の課題を解決するには、ナノサイズ領域の科学と技術の発展が不可欠です。

 さらに生命科学やバイオテクノロジーの分野で研究されている物質は、DNAやたんぱく質、ウィルスであり、その大きさは数 nm ~ 数十 nm のナノサイズの領域にあります。なぜこのようにナノサイズの大きさを持つ物質に現代の課題が集中しているのでしょうか。それはナノサイズの領域の原子配列 が、物質の基本的な性質や機能を決めているからです。炭素原子からなる物質の1つとして最近発見されたカーボンナノチューブは、グラファイトの1枚のシー トを巻いたものとみなされますが、その巻き方の違いによって金属にも半導体にもなります。また生命現象を司るDNAやたんぱく質は、原子配列が1個でも違 えば、違ったDNAやたんぱく質として機能します。このようにナノサイズ領域の原子配列が物質の性質や機能を決めており、また機能性が高い物質ほど、その 性質や機能は原子配列に大変敏感になっています。そこで現在ナノサイズ領域の原子配列を厳しく制御して物質を作り、その物質に望みの性質や機能を持たせる ことに、多くの国で努力がなされています。

 しかし人類は、ナノサイズの領域にある法則や原子を制御する方法をまだ完全には見つけ出していません。このナノ領域の法則や制御の方法を明らかにす る科学がナノサイエンスで、ナノ領域の法則を基に原子配列を制御して望みの性質を持つ構造物を作り出し、それらを組み合わせてデバイスを作り、産業に活か そうとする技術がナノテクノロジーとよばれるものです。両者の目標は同じですが、より学術的、基礎的な側面を強調するときはナノサイエンスという言葉を使 います。ナノサイエンスの当面の課題は次の2つに集約さています。

 ナノスケールで自在に原子配列を制御する方法の開発。特に自己組織化といって、生物のように、原子が自ずと凝集してある目的の構造物を作り上げていく過程の原理や法則、方法を発見すること。
望みの性質を持つ材料を創るための、原子、分子の配列に関する知識(原子の種類、配列、サイズと物質の性質や機能との関係などを明らかにすること)の蓄積。
ではナノサイエンスやナノテクノロジーの発展は、社会にどのような成果をもたらすでしょうか。「アメリカの連邦議会図書館にある全ての図書の情報を 詰め込むことができる、角砂糖サイズのメモリを作ることができる」と言ったのは、クリントン前大統領ですが、ナノ領域での原子配列の制御が可能になれば、 現在の半導体素子の1万倍もの高密度の記憶素子を作ることが可能となり、情報分野へ大きく寄与することになります。またナノサイエンスは、DNAやたんぱ く質の例のように生命現象の理解や医薬品の開発に寄与すると共に、ナノ材料を使った低コスト高効率太陽電池、水素貯蔵材料などの開発を可能にします。さら にナノサイエンスによって、原料として石油や石炭を使わずに直接的に二酸化炭素と水と太陽エネルギーから繊維やプラスティック、燃料を作ることも可能とな るかもしれません。そうなれば環境やエネルギー問題の解決にも寄与できます。これらのことから、ナノサイエンスは、情報や医療、エネルギー、環境などの問 題を解決する21世紀の基本となる科学・技術であるといわれています。

インスティテュートってなんのこと?




 ナノサイエンスを推進するには、ナノスケールで自在に原子配列を制御する方法の開発のために、原子や分子のレベルから物を創っていく知識や技術に加え、極微の世界にある基本法則を理解しなければなりません。また原子、分子の配列に関する知識の蓄積のためには、創った物質の分析や評価を行わなくてはなりません。
そのためにはナノサイエンスを発展させるという観点から、学問分野の垣根を越えて物理学と化学の両方の考え方を学び、研究していく必要があります。 そのようなテーマ設定型の新しい教育システムを理学部に作り、それをここでは学科と区別するためにナノサイエンス・インスティテュートと呼ぶことにしま す。