研究 of Nanoscience INST

研究紹介

狭ギャップ半導体量子井戸のスピン軌道相互作用

 半導体量子井戸は、ナノメートルスケールで数種の半導体材料を積層させたもので、電子が非常に薄い領域に閉じ込められるため2次元電子系とも呼ばれ、量子力学的な効果が現れてきます。また禁制帯のエネルギーが小さい狭ギャップ半導体は、スピン軌道相互作用が大きく、スピン制御用材料として注目されています。当研究室では,狭ギャップ半導体を用いた量子井戸の電気伝導特性やスピン軌道相互作用などの特性を調べています。

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三重水素結合が組み込まれた金属錯体-有機物複合体

 DNAは、特定の核酸塩基間で形成される多重水素結合により二重螺旋構造を形成しています。DNAで見られるような多重水素結合を、金属錯体-有機物複合体中に組み込むことにはじめて成功しました。この複合体を用いることにより、水素結合が関係するナノレベルでの様々な物性に関する研究が可能となります。

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細胞内シグナル感受性蛍光プローブの開発

 生命体を構成する細胞中では、生命活動を維持するためにさまざまな化学反応が起こっています。それらを引き起こす化学物質を捉え、目で見ることができれば、それは生命現象と病気のメカニズムを解き明かすための重要な手がかりとなります。我々はミトコンドリアに局在化し、活性酸素種とそれらが生み出す活性種を捕捉する蛍光プローブの開発に成功しました。この蛍光プローブは、ミトコンドリアで産生される活性酸素種とそれにより引き起こされる病気のメカニズムを解明する助けとなります。

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ロタキサンによる標的タンパク質の蛍光検出

 環状分子を軸状分子が貫通して、軸の両端にかさ高い部位に付けたロタキサンを開発しました。ロタキサンは、軸に沿って環が回転するなどのユニークな特徴をもっています。ここでは、環にはある特定のタンパク質と結合する機能をもたせ、一方、軸には異なる色合いで発色する蛍光基を組み込みました。実際にタンパク質に対する応答を調べたところ、このロタキサンは標的のタンパク質と強く結合して、明るい蛍光色を発することがわかりました。ナノバイオの研究分野において、とりわけ、細胞内である特定のタンパク質を探し出す蛍光プローブとしての応用が期待されています。

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金属酸化物を内包するカプセル状金属錯体

 金属酸化物クラスターを内包したナノサイズのカプセル状化合物の開発に成功しました。この化合物は、磁性をもつクラスターが、“螺旋状の空間”に取り込まれた構造をもっています。そのため、磁性をもつ金属酸化物はキラルな雰囲気の中にあり、光学活性と磁気的性質がミックスした新しい性質を示すことが期待されます。

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人工折り畳み分子による分子内情報伝搬

 様々な生命現象を司るタンパク質は、正しい形に折り畳まれてはじめて機能をもつようになります。このタンパク質の折り畳みを発想の源として、人工の分子による新たな機能をもったナノ分子システムの開発に挑んでいます。例えば、光学活性な側鎖を8つ導入した人工分子を開発し、これらの側鎖が寄り集まった特徴的な分子構造をとることを見出しています。光学活性な情報が分子末端から分子中央に分子内伝搬できることもわかりました。分子内で情報伝搬が可能なこのようなナノ分子システムは、分子メモリ、分子マシン、分子デバイスなどのナノサイエンスへの貢献が期待されています。

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溶媒蒸気に応答して変色する金属錯体集合体

 溶媒蒸気に応答して変色する金属錯体集合体の開発に成功しました。この一次元金属錯体は、溶媒蒸気を可逆的に吸脱着し結晶の色が変化する、いわゆるベイポクロミズムを示すことが明らかとなりました。金属錯体中では、ヒンジの様に自由に折れ曲がることができる有機物が金属イオンを結びつけています。溶媒分子は、金属イオンに結合すると同時に、金属イオンを連結する有機物と水素結合を形成します。その結果、有機物の折れ曲がり方が変化し、さらに金属錯体全体の構造が大きく変化することで結晶の色も変わります。

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シンクロトロン光を用いてナノ粒子の構造を調べる

 ナノメートルサイズの小さな粒子や薄い膜は、同じ物質でもそれがマクロな大きさの状態のときとは異なる性質を示します。そのようなナノメートルスケールで起こる現象の本質を解明し、応用しようとする研究が世界中で盛んに行われており、エレクトロニクス、バイオ技術、医療応用など、分野横断的な研究が展開されています。私たちの研究室では、将来メモリー素子や光学素子に応用されることを夢見て、半導体、磁性体、強誘電体物質などのナノ粒子・薄膜で起こるユニークな現象を明らかにし、そのメカニズムを解明しようと研究を行っています。ナノ粒子や薄膜を作ることから、分析技術を駆使してナノの構造を調べ、電気物性・光物性などを調べることまで、悪戦苦闘する中で楽しみながら研究を行っています。

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遷移金属と有機化合物の融合•••分子触媒

 酵素には、タンパク質の中に金属を含むものが少なくありません。この研究では、 医薬品や有機電子材料を作るために必要な有機化学反応をスムーズに進めるための、 金属を含む有機分子触媒を新しく合成し、それを新しい化学反応を開発したり、これ までの化学反応を詳しく調べるために使ったりしています。

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アミノ酸やペプチドを持つ人工高分子

 人工高分子(ポリ乳酸やポリスチレン)に手をつけて、アミノ酸やペプチド、ある いは発光性金属ユニットをつないだ分子を合成しています。高分子につないだだけ で、さまざまな効果が新たに生まれてきます。

第一原理計算で構造相転移を予測

 物質の性質は、ほぼ電子の状態で決まります。近年、量子力学の計算手法が発展し、計算機の演算能力が向上したので、計算で簡単に電子の状態が予想できます。下左の図に、Ti合金の変形に対して計算した電子の全エネルギー変化を示します。変形させるとエネルギーが下がり、曲線が凹んだところの変形量で結晶構造が変化(構造相転移)することが予想されます。下がった分の熱を与えると、この合金は元の形に戻りながら外部に仕事ができます。この機能は形状記憶効果と言われます。世間では、この機能が生む動力をナノレベルで活用してナノマシンとかナノアクチュエータと呼ばれるものを開発する研究が行われております。下右の図は、フランスのESRFというシンクロトロン放射光施設の実験装置です。当研究室において作製した試料に引張荷重を掛けて、計算で予想した構造相転移が起こるかどうか観測してもらいました。結果は予想した通りのものでした。

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硫黄、リン、や亜鉛などの典型元素を用いた複素環化合物の合成

 小さな分子の化合物を合成しています。硫黄についてはタマネギの刺激成分であるプロパンチアール S-オキシドの合成や牛肉の香りの成分であるトリチオランなどを合成しています。窒素を含む化合物としては、薬の構造の骨格をつくるインドールやキノリン類の合成を行っています。

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